文化庁メディア芸術祭アニメーション部門シンポジウム(長文注意)

整理券はもらっていたのですが、入場順が指定されているのではなく、あくまでチケット。
結構早めにホールの前に来ていたので、前から4列目くらいに座れました。
最前列に席が残っているとアナウンスがあると、何人かがダッシュでいったは面白かった。
で、開演までホールを見渡しつつ、どんな話なんだろうねー・・・とか友人と話していて、ふと気づいた。
最前列左端数席と右端数席に用意されていた関係者席。その左のほうに・・・見慣れたヘッドが・・・


・・・富野氏ではないか


主催者側と打ち合わせっぽい会話をしているようだ。
ステージ裏から出てくるんじゃないのね・・・
と思っていたら、右側の関係者席で2人ほど立ち上がる。
湯浅監督と大地監督ですね・・・
やっぱり関係者席から出てくる流れの模様。
つれて富野氏も立ち上がり、正面ステージの用意された席へ。
3人が座ってすぐに、開催を知らせるオープニングのムービーが流れる。
その後シンポジウムの司会・パネリストの3人がナレーションで紹介され、富野氏が進行を始めた。
開口一番、
「雪が解け始めたこんなときに、外ではなくこういう場にわざわざ来てくれてありがとう」
と、会場の笑いを取るあたりはさすが(?)な気がしました。
アニメーション部門で入選した作品の選評や総評については、パンフレットに書いてあるので割愛されました。
まあ確かに、書いてあることを繰り返されても面白くないですしね。
唯一ふれられたのは、アカデミー賞でノミネートされ、当芸術祭にも出展された「RYAN」という作品について。
この作品、推薦作品ではあるが賞を受賞していない。
その理由については今回の作品の選考基準もかかわっている模様。
今回の選考基準として、非常に元気がある・前向きなものを考えた。
そうしたら、(受賞者2人をさしながら)必然的に年齢がおっさんのほうにいってしまったとのことです(笑)
で、「RYAN」は映像の技術などは秀逸ではあるが、
作品が「暗い・うっくつしている・(富野的に言うと)病的部分を喚起している」のだそうです。
だから入選はならなかったとのこと。
続いて、大賞を受賞したマインドゲームについて、湯浅監督自身が作品の説明をしてくれました。
箇条書き形式で書きますと

  • マインドゲーム

・ラフ画みたいな感じだが、表現していることに嘘がないロビン西氏による原作の漫画。
・この映画化の話を「(ヒットするかは別問題として)いい仕事をする」STUDIO4℃から
 依頼があった。
・この作品を表現するにあたり、内容が難しいなかにわかりやすさを出すように心がけた。
 最近の(影をしっかり描く等の)リアル主義に反し、ラフさ・わかりやすさ・いい加減さ
 が出るようにした。(実写=キャラが担当している声優の顔に変わる・コミカルなアニメ
 表現を多用している)
・しかし適当というわけではなく、作品自体はしっかりとしたつくりになっている。
・音楽については渡辺信一郎監督からアドバイスを受け、メインを担当する方を起用した。
 実は、ピアノ曲1曲を菅野よう子さんが手がけてもいる。
・声優はネイティヴな大阪のイメージを・・・と考えていると、吉本の芸人さんが必然的に
 多くなった。決して吉本と提携していたわけではない。

富野評としては
・作品全体に感じられる息遣い(ストーリー展開やキャラの描写など)が
 いい意味でアニメ的ではなくリアルに表現されている。
・商業的にはヒットしていないのが非常に残念。選評用のDVDを見たあと、
 セルDVDを買ったくらいだ。
・最初見たときは作品・絵の汚さに5分で見るのをやめ適当に選評を書こうとしていたが、
 7分くらいで徐々に引かれていき、最終的にはのめりこんでいった。
・汚い絵も慣れると中毒になる。私はクレヨンしんちゃん(湯浅氏が監督をつとめる
 アニメ)のような絵が大っ嫌い(←えらく強調)なのだが。

というような話があり、大地氏も瞬く間に移りゆく作品の表現についてなどを絶賛し、
湯浅氏とトークを弾ませていると、富野氏が
「そこ!2人だけで盛り上がってるんじゃない!」とくぎをさし(笑)大地氏の作品の話へ。

・こどちゃと同じテンション・ノリの精神を引っ張ってきた作品。
・大人の作り出している世界で活躍する、生き生きとしている子供たち(主人公の3兄弟=
 小学校6年生)を描いた
・ハリウッド映画のOPにあるような、水しぶきがあがったり、水上バイクが駆け抜けていく
 シーンを映像化したくて実現させたが、見てみるとイメージとは全く違った(笑)
・作品でひときわ目をひく「手話」の表現。これを取り入れたのは、手話の動きの
 「カッコよさ」から。あの動きにカンフーのような効果音を入れようと常々思っていた。
・で、俺がパイオニアになるんだーっという勢いで作ってきたが、
 こんな大変なこと誰も真似しないと思った(笑)
・手話は微妙なニュアンスの違い、動きの違いで台無しになってしまう。
 事実、出来た映像を手話指導のセンセが見て首を傾げてしまったことがあった。
 自分はコンテ1枚描くだけだから楽だけど(笑)、製作側は大変である。
 手話をカッコよく、コミカルに描く「高速手話」が特に大変であった。
・手話を用いた演出も魅力だが、作品自体、本筋のストーリーもみものです。
・本来は70分くらいにしたかったが、なんだかんだと凝縮したら21分になった(笑)

富野評としては
・21分という短い中に、楽しさ・魅力が凝縮されている
・手話の用い方は本当に巧み。このような表現は目からうろこであった。
・これらの表現は今回のテーマに非常にマッチ。でも、大地監督のような絵は本来は
 大っ嫌いだ!(笑)

富野氏結局2作品とも絵が嫌いとのたもうたよ(笑)
しかし、基本的には絶賛していました。ここでは話には上がらなかったのですが、
実はマインドゲームは大賞を取れなかったかもしれなかったんです。
富野氏を含めた審査員5人が大賞に推薦したのは、ハウル3票、マインドゲームが2票だった。
で、富野氏の裁定でマインドゲームになったらしい。
議論は最後まで結論が出ず、最終的には富野氏の判断にゆだねられたようです。
パンフにある贈賞の理由には、「莫大な予算が投下され、長い制作期間と複雑な画面処理を経て生まれた
濃密なビジュアルが横溢(おういつ)する作品が集中した本年度に、デジタルもアナログも無関係な、
1本の力強い描線に宿る生命の放つチカラを再確認できたのは、実にうれしい限りである」
とある。
おそらく、マインドゲームがハウルと近い条件の下作られたのであれば、ここまで評価されなかっただろうし、
シナリオ自体も、富野感ではハウルよりもぬきんでていたのでしょう。
ボクもこっちが受賞してくれてうれしい気がする。
で、そこからお3方のアニメ感について話が展開。
富野氏いわく、現在のアニメは飽和状態にある。で、そのことについて意見を聞くと、
パネラー2人も自分たちのことで精一杯だそう(笑)
関連して湯浅氏が話し始めたのですが、
・今のアニメは方向性が決まっている感じ。大体3つにわけられると思うのだが、
 第一にアイ・ジ・・・もといシリアス・リアル系、かわいさ=いわゆる萌え系、
 あと心理的・トラウマ系の3つでくくられると思う。
・このような作品ばかりであるから、今後この世界に来たいと思っている人は、
 それを打ち破るような作品であれば付け入る隙があると思う。
大地氏も続けて、
・最近の作品は並べて見ると同じに見える。自分のを並べて同じに見えたらあせります。
・個人的にはスポンサーからの形式ばった要望を打ち砕きたくなる
(形式ばった要望のひとつに、番宣ポスターはキャラクターが全員集合のものにしてくれというものがあるそう。
これは・・・言われてみて気づきました。確かに多いな。この件は後に富野氏も触れました。)
大地氏さらに続けて、
・ただ、始めっから逆らってばかりだと、評価されるものもされなくなる。
 最初はスポンサー側の要望にこたえつつ、後に自分流を徐々に出していけたらいいのでは?
富野氏が大地発言に付け加え、
・大地氏の演出スキルはイルか!にはよく出ている(手話の使い方、キャラの引き立て方など)。
 彼自身の「形」あり、その中に他作品に見られる「形」にはまらない演出がある。
・全員集合のポスター・宣伝が横行するのは、「一種の責任逃れ」
 というのは、作品がヒットし人気キャラが出た場合、番宣ポスターにそのキャラが乗ってた場合、
 手柄に出来るから。否が応にもうつってるわけだしね。

・・・なんじゃそりゃって話ですが、そういう流れなんだそうな。変な時代だね・・・
続けて富野氏が、業界において「話が出来ない」つまり、シャイで話ベタな人間がふえているときりだす。
これには全員賛同し、大地氏が、「横でいい仕事をしている人間(求める作画を描いてるなど)を
ほめなくなった。そういうとき、ダメだなと思う。」といってました。これにも全員賛同。
富野氏はさらに、「自分はほめない人間だが、それは負けたくないからだった」とのこと(笑)
やはり負けず嫌いなお方です。
でも、それが「話が出来ない」人間を作り出したのならそれはまずいので、
今後業界に来る人は、ほめられるようにまず自分の言葉を持ってほしいとの事。
まずは自分からコミュニケーションとれってことですね。先輩方は突き放さないそうです。
ちなみに湯浅監督は、話ベタな人間だそうです(笑)

続いては、先ほどから話題になってる「どのアニメも同じに見える」ということから、
作品におけるオリジナリティについて。
まず湯浅氏が、「クオリティも大事だが、自分が面白いものを作ればオリジナリティは必然と出るのでは?」
と発言。
大地氏が続けて、「自分の感覚が一般的であれば、そこから発信されるおもしろさはうけいれられるはず。
自分自身はもてたい気持ちから、いろんなジャンルに手を出し、いろんなターゲット層を狙ってますよ(笑)」
と発言。なるほど、さすがはおじゃるで若い女性から熟女までのハートをがっちりキャッチした男。
「そんな風にして自分の世界を広げていけばよいのでは?」と締めていました。
富野氏が結論として、「それを出すためにはまずスキルをしっかり磨かないといけない。
業界に受け入れられるには、自分流を推し進めるだけではだめ。
だが、もちろん自分から様々な可能性を発信していくべきだ」といっておりました。
このような要素が、今回のパネリスト2人の作品にはよく出ていますね。
そのためにはしっかり下積みを経験して、いろんなものを吸収しろってことでしょう。
最後にここまで2つをまとめた意見として、オリジナルを喚起することの重要性をテーマに
以下のようにまとめておりました。
・規定路線に乗っかってばかりでは個性が没してしまう。サラリーマン的なものには打ち勝たなければいけない。
・アニメーター・監督はしっかりと我を出すべき。
このことを語る例として優秀賞を受賞した「BIRTHDAY BOY」という作品を例に挙げました。
この作品は韓国・オーストラリアで活躍しているアニメーターの作品。
(韓国では進歩が進んできているが)どちらの国もまだまだアニメ後進国である。
この作品は日本にはない独創的がありメッセージ性の高いもので、
このような新たな存在はいい刺激になるであろう。ということです。
あせらなきゃいけないですよね。このままの状態だと日本がいつまでも頂点にはいないと思います。
関連して湯浅氏が、
「最近のセルアニメーションのCG主義は疑問。アニメーターとしては、I.Gみたいなのが
評価されて、視聴者が求めるものというのならそれはそれでいいんだけど、なんかいやだなあ」
といってます。そういえば冒頭のほうでもシリアス・リアル系をPRODUCTION I.Gっぽいと
一まとめにしようとしてたような(笑)
ようは攻殻機動隊アップルシードのような作品は、それはそれでいい作品とおもうけど、
そればっかりが業界内で評価されるようなのは・・・ねえ。ってことですね。なるほど。
大地氏は
「業界がダメだと燃えます。自分がいいのを作ってやろう!!って。最近、見たいと思う作品は全くない。
でも本来、自分はいい作品を見たいと思っていたはずなんだよね。
だからマインドゲームみたいな作品が出てきたときはうれしかった。」
手厳しいですね。やはり最近のアニメはどれも同じに見えてしまうってことなんでしょう。
とまあ、こんな話で1時間が終了。最後に1個ずつ質問を受け付けたけど、
別段話題にするものでもなかったです。
個人的には大地氏に、「斉藤彩夏という声優の魅力について」聞きたかった(笑)
締めの富野氏の一言が、
「ここに来ている人たちが今後業界を盛り上げることを期待します・・・
というけど、本音としては全く期待してません!だって負けたくないから」
最後までこんな感じでした。
でも1時間非常に濃密な時間を過ごせましたよ。いろいろ視聴者・ファンとして考えるところも多かったです。
長くなってしまいましたが、読んでくれた方ありがとうございます。